懸命に思い出そうとするも、何故か記憶が曖昧だった。


確か敵襲に遭い、主君や姫を守るために戦っていたはずである。



(まあ何にせよ、せめて一族の恥にならないような死に様であったことを願いたいものだ)



彼はフッと息を吐き、木にもたれかかる。


そして、木々の揺れる音くらいしかしない森で、目を閉じ聴覚に意識を集中させた。



いついかなる時も、敵の気配を探ってしまう。
忍びの悲しき習性だった。



と、その時──



「や、やめて!こっちに来ないでっ」



遠くからそんな声が聞こえた。

女の声である。



目を開いて、声の聞こえてきた方角を見た。



(俺の他にも誰かいるのか)



声を聞く限り、何やらただならぬ状況のようだ。




琥珀は、地面を歩くより速いと判断して木に登り、声の方向へと移動を開始した。

訓練により(つちか)った忍びとしての力で、木から木へ音もなく素早く跳ぶ。



(あれか…)



しばらく移動した先で、琥珀はようやく数十間先に声の主と思われる人物を発見した。


その付近には、牙を()く野犬が二匹。



彼と同じ十六、七くらいに見える少女が、長い木の枝を振り回しながら、怯えるように一歩一歩後ずさっていく。


しかし少女が後ずさるたびに、敵対心をあらわにした野犬たちが近づく。



(このままでは食い殺されかねないな)



琥珀は手持ちの武器を取り出そうと胸元を探る。が、そこには手裏剣や撒菱(まきびし)などの道具がなかった。