「じゃあ、また明日。ゆっくり休んで」
「ああ」
由菜が去ったとたん、森が一気に静まった。
琥珀は一人、仰向けに寝転がる。
(ああそうだ。あの声は、間違いなく唄姫。それに白塚家といえば、強大な力を持つ家だったな)
しかし記憶を辿れど、唄姫が白塚家に嫁ぐという話は覚えがない。
(姫が嫁ぐという話も、ここに来る直前の記憶と同様、無くなっているのか……)
ぐしゃぐしゃと頭をかき、息を吐く。
もともと、唄姫とは身分が違うのだから、想うことが許される相手でないことは分かっていた。
だが、頭で分かっていても制御できない気持ちだってある。
(今は忘れてしまっているが、もし姫が嫁ぐ話が本当だったとして……
俺は彼女からその話を聞き、笑って祝福できたのだろうか)