「それは、わたしに明日答えてもらいたい質問ってこと?」
「い、いや違う!少し気になっただけだ!答える義務のある質問ではないっ!」
琥珀はだんだん自分がどうして慌てているのか分からなくなってきた。
ただ一つ、はっきりと分かるものがあった。
(自分で聞いておいてだが……『いる』という答えが返ってきたら面白くない)
というか嫌だ。
できたら答えて欲しくない。
しかしその願いは通じなかったようで、由菜がゆっくりと口を開いた。
「好きな人、か」
「別に答えずとも……」
「今のところは特にいない、かな」
「っ……」
いないのか。ホッと胸を撫で下ろす。
が、その安心も束の間──
「好きな人はいないんだけど、決められた婚約者はいるのよね……」
「婚約……者」
「そう。今の時代珍しいんだけど」
由菜の答えを聞きながら、琥珀は心がスっと冷えるのを感じた。
それと同時に、誰かの声が頭に響いた。
『琥珀。私、白塚家に嫁ぐことが決まりました』
(この声は……)
頭がガンガンと痛む。
思い出せ、思い出せ。そう焦れば焦るだけ、その記憶は薄くなっていく。
「……すまない由菜。少し体調が優れぬようだ」
「えっ?体調?」
「拙者とて人間だ。体調が悪くなることぐらいある」
「あ……そうか。そうよね」
由菜は何か言いたげな顔をしていたが、すぐに立ち上がった。