「こうなった時の状況…」



言われて琥珀は考えこむ。



(状況…とはいっても、気がついたらここにいたんだ。それに、何故かここに来る直前の記憶がない)



あの日の朝、突如、敵軍襲来との報せが入った。

飛び交う指令と響き渡る怒号、それから血と火薬のにおい。


静かに目を伏せる唄姫の姿。


そして琥珀は彼女に──




「っ、ああ!」



頭を抱えて叫ぶ。

もう少しで思い出せそう。だが、思い出したら何かを失ってしまいそう。

何故かそんな風に感じられた。



「ちょっと!大丈夫!?」



由菜が心配そうにのぞきこんでくる。



(やめろ、その顔を見せないでくれっ)



苦しさに顔を歪める。

だんだんと呼吸が荒くなっていく。




「や、やっぱり無理して説明しなくていい!」


「……」


「だって、なんだか色々と混乱してるみたいで、話せそうな様子じゃないわ」


「思い出せないんだ。ここに来てしまった直前の状況が」


「思い出せない…?」


「ああ」



深く息をつく。



「そう…」



由菜は少し考え込む素振りを見せてから、いきなりビシっと手を挙げた。



「じゃあ、今からわたしの話をするわ」


「は…?」


「そうだ、こういうのはどう?
一日に二つまで、お互い自分のことについて話すの」


「一日に二つ?」


「うん、一日に二つ。
その代わり、ちゃんと頭の中で話したい内容を整理してから話す。もちろん嘘はだめ」


「すまないが、お主の言いたいことがわからん」



眉をひそめると、由菜は「だーかーらー」とニッコリ歯を見せる。