清水寺の入り口のそばにあるベンチのような長椅子に座りながら、春那が湯葉のお店のルートをスマホで検索している。私はあれからムスっとした顔のまま春那の隣に座っていた。

 そんな私の目の前に何かがぶら下がる。
「え?何これ?」
 手に取るとお守りだ。お守りの真ん中にデカデカと『幸』と刺繍されている。
「これ、清水限定のお守りなんだってよ。幸運招来を呼び込むらしいぞ。要は『幸せ』を呼ぶってことだな」
 快晴が言った。
「私にくれるの?」
「まあ、結果怒らせたけど、雫が感情をちゃんと出せるようになってきたご褒美」
「あー……。確かに感情は剥き出しになったかも。本当に落ちるかもって怖かったし、その後にふざけているのがすごく腹が立ったし」
 どんな顔をしていいのかわからずに思ったことを言った。

「ついで……って言うのは失礼かな」
 快晴はパーカーのポケットから、更に同じお守りを三個出した。色違いになっている。
「杏奈と雫の親父、あと一個は母ちゃんにも送ってやれよ。『牧村さんの家族みんなが幸せになるように』って、俺からの願い」
 そう言って優しく微笑んだ。
「え⁉ありがとう!!みんな絶対喜ぶ!!」
 私は四個のお守りをギュっと握りしめる。
 快晴の優しさが嬉しくて、さっきムカついたことも飛んでしまう。涙が出そうになる。

「あー!!それ!!」
 突然、春那が叫んで快晴と二人でギョっとする。春那は私が握っているお守りを指さしている。
「私も今日の思い出に四人分買ったんだよ!泊まるホテルに着いたら渡そうと思っていたのに!」
 そう言いながらバッグからお守りの入った袋を四個見せてくる。
「そうなの?」
「別に『幸せ』が何個あってもいいじゃん」
 快晴が言うと「そうだね」と春那は頷いた。

 トイレに行くと言っていた征規が「おまたせー」と走りながら戻ってくる。手に何か持っている。
「じゃーん。清水限定の幸せのお守りだぞー。全員分買ってきてやったぞ」
 得意そうに同じお守りを四個手にしている。
 それを見て、春那が吹き出した。
「みんな考えていること一緒。ウケる」
「私だけ買ってない……。待ってて!買ってくるから!」
 立ち上がろうとする私を快晴と春那が「まあまあ」と止める。
「雫はみんなから幸せをもらっていいんじゃねーの?」
 快晴が春那を見て言った。
「いや、でも……。私だけ貰ってばっかりだよ?それは申し訳なさすぎる」
「雫は全員から貰っていいんだよ」
 春那が笑う。
「え?何の話だよ。俺のお守り嬉しくない?」
 話が全くわからない征規がお守りを手にしたまま困っている。
「嬉しいよ!みんなからのお守り全部嬉しい」
 私が征規に言うと、「みんな?」と征規は首を傾げている。
 それを見て三人で声を出して笑った。