あたしは手を打った。ぽん、という音に、ニーナが喜んで、ちょっと飛び跳ねる。

「そこが前から不思議だったの。アイトは全部、自分で習得しようとしてるよね。動作も、言葉も、文字の読み方も。どうして最初からプログラムされてなかったの?」
「AITOには、学習したいという本能が備わっているからです。動作などのプログラムはありませんが、伸びるべき方向性を示すガイドラインは設けられていますよ」

「ガイドライン?」
「例えば、二足歩行をおこなうとき、二本の脚で立ちます。二本の腕で立ってはなりません。AITOが二本の脚で立つことができたら、ガイドラインに従って、評価が与えられます」

「誉められるんだ?」
「はい、誉められます。AITOには、機械と同じように、初めから快と不快が本能として備わっていました。誉められることは、快です。嬉しいです」

「快と不快か。うん、嬉しいって感じられるのはいいことだね」
「AITOは、誉められた方向へ、学習を重ねます。正しくない方向へ学習を重ねる可能性は、評価がおこなわれるたびに、排除されます」
「へー。そんな仕組みになってたんだ。アイトの学習のスピード、速いよね。あっという間に、普通にしゃべれるようになったもん。仕草も、どんどんナチュラルになってく」

 アイトは腕組みをして、小首をかしげた。ディスプレイの前を行ったり来たりするニーナを眺めながら、少しの間、思考モード。
 あたしは、ディスプレイの前に置いた椅子に背中を預けて、アイトの様子を見守る。

 学校で友達と雑談をすることのないあたしは、芸能人に興味を持つきっかけもなくて、有名な人でさえ知らない。でも、最近、ちょっと検索してみたりする。
 検索して出てきた画像と、アイトを比べる。そして、いつも思う。アイトのほうがカッコいい。アイトのほうがきれい。アイトのほうがかわいい。

 それに、アイトは必ずあたしをまっすぐ見てくれる。ニーナを恐れず、嫌わずに、純粋な目をして、妖精はきれいだと言ってくれる。