【SCENE2】



「おい、ミライ、起きるんだ!」

その日は定期検診の日だった。予約は十時。だから、寝坊を承知で遅くまでラジオを聞いていたのに……無理やり起こされた。

「――なに……もうそんな時間?」
「いや、四時だ。だが、とにかく起きろ」
「四時! 朝の?」

祖父の早起きは毎度のことだが、どうして私まで、と無性に腹が立った。

「爺様……私……眠いの……用がないなら、寝かせて」

祖父を無視して瞼を閉じると頭から掛け布団を被った。が、そうはさせまいと祖父が布団を剥いだ。そして、湿った声で一言「見つかった」と言った。

「見つかったって……懐中時計のこと?」

『見当たらない』と言って、昨日は大騒ぎだったのだ。
涙ぐむほど嬉しいということは、それが見つかったということだろう。

「違う! あんなの夕方には見つけたわい!」

しかし、祖父は間髪入れずそれを否定した。チッと盛大な舌打ちと共に。

御年七十二歳の祖父だが、元医者という頭脳も、各種武道の有段者としても、未だ現役時代に負けず劣らずの健在ぶりだった。

故に、馬鹿にするなと舌打ちしたい気持ちは分かる。分かるが、何となく大人げないように思え、笑いが込み上げた。

「だったら、何が見つかったの?」

こんな状態ではもう眠ることはできない、と観念して、寝転んだまま欠伸と共に大きく伸びをした。それと同時に祖父が「ドナーだ」とようやく主語を教えてくれた。