「食い物の礼だ、特別に教えてやる。お前の目に視えている霊たちは安全だが、視えていない奴らは悪霊だ。悪霊は人間の醜い心に取り憑き、その主の心を(むさぼ)り、(おとし)める。そうやって靉靆(あいたい)たる世界に引きずり込み、仲間を増やし、世を混乱に導こうとする。悪霊に関わったら祓うまで憑き纏わられる。お前はその獄中(ごくちゅう)にいるのだ!」

そう言うと山伏は何が可笑しいのか高笑いし始めた。

「どこであんな奴を拾ってきたんだろうな?」
「――今の話、本当ですか?」

ゴクリと唾を飲み込み訊ねる。
視える霊も恐ろしいが、視えない悪霊はもっと怖い。

「祓うって……心残りを解決に導いてあげれば良いんですよね?」
「アホか。悪霊の心残りなんか聞いたら、お前は犯罪者の仲間入りだ」

間髪(かんぱつ)入れずアホと(ののし)られ否定されてしまう。

「なら、どうしたら良いんですか?」

涙目で訊ねると、山伏はそれはもう晴れやかに笑った。

「そんなの決まっているじゃないか、俺にそれ相応の金を払い、俺に祓ってもらえばいいんだ」

〝俺〟を強調する山伏に、悪徳霊能者――その言葉が(よみがえ)る。

「または」と言って山伏がニッと口角の右側だけ上げた。何だかとても悪い笑みだ。

「俺の助手になれ。お前、霊と穏やかに意思の疎通(そつう)ができるらしいじゃないか」

霊たちとの対話=意思の疎通、となるのだろうか?