時花にはさっぱり意味不明だが、店長の前職については何となく想像できる。
「店長は前職でも正しいお仕事をなさってたんですね!」
「ですが、この上司は僕の開発案に聞く耳を持ちませんでした。僕だけでなく、事務のお荷物だった矢陰光さんもまとめて退職へ追い込んだのです」
「あれは浅慮だった!」座りながら地団駄を踏む鑑定士。「貴様の居ない我が部署は、不採算部門へ成り下がった。責任を取って地方の閑職に左遷された挙句、現地でもお荷物扱いされて耐えられなくなり、ついに自主退職したのだ……」
人を呪わば穴二つ、とはよく言ったものだ。
時任刻を追い出したツケが、巡り巡って自らの首を絞めたのである。
「職を失ったが、時計を見る眼は経験があったゆえ、質屋に再就職した……それは前職に比べたら低収入の、糊口をしのぐ程度の稼ぎしかなかったが……」
「だから『贋作』の流通に手を染めたのですか?」
「その通――……あ、いや、危ない危ない! 贋作は『時ほぐし』の仕業ではないか!」
しどろもどろに反駁する鑑定士が、いかにも怪しい。
意地でもそこは認めないらしい。無理もない、贋作はれっきとした犯罪である。法で定められた古物商許可証にも明記されており、違反者は商売が出来なくなる。
「課長の持つ偽物と、石上さんの本物をすり替えたのでしょう?」