「へ?」

 小神が何を言いたいのか、普段に増して分かりづらく、首を傾げた。しかし小神はそれきり黙ってしまった。それも無表情で。何を考えているのか、さっぱり分からない。もうしばらく待っていれば小神が何か説明してくれるのでは、と期待しつつそのままの体勢で待っていた。

 けれども小神は何も語り始めなかった。まったくこの男は、言いたいことだけを言って、言ってほしいことは言ってくれないところがある。仕方なくわたしは弁当包みを片づけながら、グラウンドをそのまま見つめ続けていた。

 そのうち、松本くん始め野球部員たちがグラウンドの片づけをし始め、小神はちらっと腕時計を覗き見た。

「ところで星野さん、何をぼーっとしているのですか?」

「ふえ?」

 ぼーっと、とは失礼な。

「もうあと二分ほどでチャイムが鳴りますよ? 五時間目が生物教室なら、ここから遠いですし、急いだ方がいいのでは?」

「うげっ」

 そういうことはもうちょっと早めに言ってよ!

 悉く、小神は言ってほしいことは言わない男だ。