自転車をかっ飛ばし、メモに書かれた住所についたとき、わたしは小神家の立派さのあまり嘆息せずにはいられなかった。

 わたしの目の前に建つのは、南フランスの(おそらく)輸入住宅。

 プロヴァンス地方の家を思わせるオレンジ色の瓦屋根に、クリーム色の外壁、アーチ形のエントランス、白く縁取られた窓枠、突き出た煙突――。

 さらに玄関先の駐車場に止められているのはドイツ車で、一点の曇りなくつやつやに磨かれている。

 二台分の駐車スペースのうち、一台は空いていた。

 奇妙な言い方だが、まさかここに「忠作」と名付けられた男子高校生が住んでいるとは容易には信じがたい。

 どう考えたってこの家の中に住んでいる人間のイメージは「アレクサンドル」とか「フランソワ」とかそんな名前の碧眼ですらりと背の高い人間なのだけれど、間違いなく表札には「OGAMI」と彫り込まれていた。

 想定外の外観にしばしわたしの目は釘付けになる。

 口を開けっ放しにしてその二階建ての南仏風住宅を見上げたのち、わたしは腹をくくってチャイムを鳴らす。

 出てきたのは小神とどことなく顔の造形の似た、母親と思しき女性で、わたしが名乗り、ここへ来た理由を簡潔に告げると、気前よく応接間へと上げてくれた。

 母親は顔こそ小神と似てはいるものの表情豊かで愛想がよく、わたしの来訪を歓迎してくれた。

 レモンティーと種々のクッキーがすぐに出され、わたしは恐縮する。いかにも高級住宅街のマダムといった言動と身なりだ。
「今すぐ忠作を呼んできますね」と母親は――いや、お母上は応接間を出ていった。