「でもそれを言えば先輩と松本くんこそ面識がない者同士じゃないですか。なんで松本くんの夢を見たときにそれが松本くんの夢だってわかったんですか」

 わたしが尋ねると、「どうしてそんなことをわざわざ訊くのだろう」とでも言い出しかねない表情になった。

「まず、自分が夢の中に侵入できるのは、自分が一度でも直接顔を合わせたことのある人間に限られます。それもその日の一年以内に接した人物。このことから、学校内の教員や生徒である可能性が非常に高いと考えました。

 さらに、手掛かりとなったのは内容です。私が最初に見た夢の中で、松本くんはテストを解いていました。その問題用紙に印刷されていた問題は、数学Ⅰの四月に教わる初歩的な問題ばかりでした。このことから高校一年生である可能性が非常に高いと睨みました。

 さらに、夢の主は比較的テンポよくそれらの問いをこなしていましたから、一年生の中でも成績上位者であると踏みました。ちなみに彼の解答にミスは一つもありませんでした。

 それから、試験から逃れて野球をするという展開で、彼が向かったグラウンドには我々の高校の野球部のユニフォームを着た部員が大勢いました。
 そこから夢の主が我々の高校の生徒であることがまず確定し、さらに野球部員であることが察せられました。

 重要なのは、そんな一年生の男子生徒を、どうして私が知っているかということです。
 該当生徒と廊下や校内のどこかですれ違っただけではないのではないか。そんな直感がありました。

 となると、四月の時点で考えられる機会としては、入学式です。
 二年生は入学式に強制参加ですからね。
 星野さんの学年の入学式において、新入生代表の挨拶を行った生徒は、松本大輔くんしかいません。

 代表の挨拶はいやでも目立ちますから、私の印象にも強く残ったのではないか。そんな仮説を立てました。

 夢から覚めてから学校の職員室で適当な理由をでっちあげて一年生の名簿を入手し、入学時の数学の成績が上位で、かつ野球部に所属している生徒の名前を探しだしたところ、私が予想した通り、該当者が松本くんしかいなかった――というわけです」