「見事な棒読みですが、それはさておき」

 微笑が彼の口元に浮かんでいたのは束の間のことだった。

 再び小神は視線を川の向こう岸へと投げかける。

 それは現在ではなく、過去に思いを馳せている証なのかもしれない。

 川を隔ててこちら側がわたしたちの生きる今、あちら側がかつて小神が夢を覗き見する能力を持っていた過去、といった具合に。

「私と星野さんが我が高校の食堂で運命的な邂逅を果たした一週間後の夜のことでした」

 小神の頭の中では我々の呪わしい出会いが、ドラマチックな邂逅へと仕立て上げられているということを、わたしは今ここで初めて知った。

「その夜の夢で、またしても私は松本くんの夢の中に入り込んでいました。
 幾度も侵入を重ねていると、次第に感覚で分かるんです。
『あ、たった今私は松本くんの夢の中に入り込んだんだな』と。
『きっと今夜も私は試験を放棄して野球をするのだろう』
――最初から展開など読めていましたので、その心積もりでいました。」