「えー、そんなの忘れちゃいましたー……ってんなわけないですよ。食堂で大変ご丁寧にお節介を焼かれましたからね。よーく覚えていますよ」

 もちろん、忘れようはずがない。

 ゴールデンウィーク明けのある日、食堂で唐突に話しかけてきた名も知らぬ風変わりな上級生のことなど。

〈きみ、日替わりランチを注文するなんてナンセンスだ。ギョーザを頼みたまえ、ギョーザを。ここのギョーザは一級品なのだよ〉

〈ギョーザなんて食べたくないです。口がにおって午後の授業に出られなくなるじゃないですか〉

〈小物ですね〉

 こんな下らないやり取りを覚えているわたしもどうかしたものだと思うけれど、あまりにも「小物」の一言がカチンときたものだから印象に残ってしまったのだ。

 本当ならば小神のことなんて一切合財忘れ去ってしまいたかったのに。

 小神は少し満足そうな笑みを浮かべた。

「私もはっきりと覚えています。まさか入学したての後輩にあれほどまでに反抗的な態度を取られようなどとは夢にも思っていませんでしたので」

「それはそれは失礼いたしましたー」

 全く謝罪の念のこもっていない謝罪文句を口にする。