こんな戯言、最後まで聞いてられるか!
 とわたしが入れた突っ込みに、小神は肩をすくめた。

 星野さんが最近特に冷たいだのなんだのぶつぶつ呟いているが、それらは一切無視した。

 小神は真面目な口調に戻ってこう語り始めた。

「私が彼女に〝切られて〟からのことでした」

「彼女」とは、先ほどの話に出てきた、小神が救おうとした女性のことだ。

 〝切る〟とは〝縁を切る〟という意味だろう。

「私が彼女の夢を覗き見ることはほとんどなくなりました。
 どうしてそんな風に唐突に彼女の夢を覗くことがなくなったのか、私にはわかりません。
 心理的ショックがこの能力に何かしらの影響を与えるのでしょう。

 それからしばらくは何の夢を見ることもない、静寂な夜が重なりました。

 それは小休止のようなもので、久々に私の夜に訪れた平穏でした。私はもう他人の夢を覗き見る力そのものが誰かに転移したのではないか――そんな風にさえ思っていました」

 小神はゆったりとした口ぶりでそこまで話すと、大きく息を吐きだした。そして、頭を二、三度静かに横に振った。

「でもそれは私の楽天的な願望に過ぎませんでした。五日ほど後のことです。私はこんな夢を見ました」