それは周囲の人々の話し声にあっというまに掻き消されてしまう程度の小声だった。

 小神はそれだけを呟くと、ほとんど冷めかけのハンバーグをそれまでよりも速いペースで口に運び始めた。つられてわたしも鯖の味噌煮をやや速いピッチで胃袋に収め始める。

 わたしはその理由を問わなかったし、それ以上松本くんの夢について問うこともしなかった。小神もまた同様に、一切言葉を発せず、黙々と目の前にある安いランチプレートを、それでも品格を感じさせる作法は崩さずに平らげた。

 そこにはわたしの背中をぞくりとさせる何かがあった。

 これからきっと小神の口から不吉な知らせがあるのだ、とわたしは直感する。

 小神の沈黙ほど恐ろしいものはこの世にはない――そう思わせるほど。