あなたには、ちょうのうりょくがあります。


 ちょうのうりょく? ちょーのーりょく?
 ちょうのうりょくって、超能力?

 わたしの脳内でその音が漢字変換されるまでかかった時間は七秒。通常の会話だとものすごく遅い部類だ。

〝超能力〟。

 今、わたしの耳と頭がおかしくなければ、小神はわたしにこう言った。あなたには、超能力があります――と。

「……ははっ」

 無意識のうちにわたしは鼻で笑っていた。乾いた笑い声、というのはこういう声を指すのだろう。

 わたしはグラスを握り続けた結果すっかり氷が解けてほとんど水になってしまったオレンジジュースを口にする。もうジュースなんだか、水なんだか分からない。

 いや、味が分からないのはひょっとすると、氷が解けているせいではなく、動揺しているからかもしれない。



 
 とうとう、小神の頭はおかしくなってしまったらしい。



――というのが、この数秒でわたしが得た結論だった。



 おかしいのはわたしじゃない。小神だ。



「星野さん、あなたは今さぞかし驚かれていることかと思います。きっとあなたは今胸中で『とうとう、小神の頭はおかしくなってしまったらしい』などと思われたことと思います」

「よくわかりましたね!」

 わたしがほんのちょっぴり驚いたところで、小神は悲しげに頭を振る。あんたがことごとくわたしの脳内の言葉を読みとれているその能力の方がよっぽど超能力らしいのですが。

「超能力も信じられないなんて、ずいぶんと寂しい人生ですね」