少ししてから「いやいや」と苦笑した。

「そうじゃなくて。恭太君のお話も聞かせて下さいよ」

「だめだめ、退屈すぎて語り手が寝ちゃうから」

「絶対嘘ですよ。トシおばあちゃま達もそう言って、退屈な話なんかじゃなかったですもん」

僕はふっと息をついた。「じゃあ、薫子が薫子のこと教えてくれたらね」

「え?」

「僕も薫子のこと知りたいんだ」

「わたしの話こそ、退屈ですよ」薫子はぽつりと言った。

「自分の話なんてそんなものなんだよ。だけど僕にとっては退屈なんかじゃない」

「わたしはただ……弱く幼く、愚かなだけです。そんな人間が主人公の話、誰が聞きたいんですか」

「僕が聞きたい。それに薫子は弱くない。自分を嫌いになれる人ほど強い人はいない。自分の短所を認められない人こそ弱いんだ」

「恭太君は、自分のこと好きなんですか?」

「好きだとは思ってないけど、本能には逆らえない。結局、どこかに自分を守っている部分を感じる」

「わたしは……強かったら恭太君達には出逢ってませんでした」

僕は小さく笑った。「弱くたって、死ぬわけじゃないんだよ」