「あれ?」

 翌日は土曜日だった。開店時間前、私より三分ほど遅れてレジカウンターに入ってきた央寺くんが、私の顔をまじまじと見る。

「ないね、眼鏡」
「うん。コンタクトにしたの」
「へぇ。なんでまた?」

 腕組みをした央寺くんに聞かれる。

 理由らしい理由はないのだけれど……。

 でも、あえて言えばやっぱり殿村くんの勧めがあったからかなと思い、
「うーん……いいと思っている人がいるって言ってたでしょ? その人に眼鏡ないほうがいいって言われて」
 と答える。

「……なるほどね。電話では何も言ってなかったし、驚いた」
「あぁ、うん、夜は眼鏡だからすっかり忘れてた」

 私たちは将棋を指しながら日常のそんな些細なことを話すほどにまでなっていた。親しく話すことができればできるほど、あの事件がまるで嘘だったかのように遠のいた気がする。最初は逆だと思っていたけれど、荒療治というか、克服するためのステップになったんじゃなかろうかと思えるくらいだ。