「ほらね」

 私の席周辺が静かになると、頼子は腕組みをしてこちらを見た。

 私は、
「何が?」
 と言って、廊下から頼子へと目を戻す。

「和奈が男子に対して笑ったり、“変”って言えるようになるなんて、ひと月くらい前なら考えられなかったのに」
「そ……そうかな?」
「そうよ」

 そう言われれば、そうかもしれない。でも、男子に対してというより、殿村くんに対してだ。でもその殿村くんにだって、ひと月ほど前は直接話すことすらできずに、頼子の影に隠れていたというのに。

「なんか、殿村くんてかっこよくて王子様キャラなのに、気さくに話しかけてくれるしさ、褒め上手っていうか、こっちを嫌な気分にさせない魅力があるから、多分殿村くん限定でそうなってるんじゃないかな。話しやすいし、話してて楽しい」

 言いながら頼子を見上げると、その顔はみるみるうちに青ざめだした。口に手をあて、わざとらしく「あぁ……」と嘆き悲しむ演技を見せる。