「5三銀」
『8三歩成』

 今日も、きっちり夜十時半に着信が入った。今、央寺くんと電話対局中だ。

「ま……参りました」

 そして、今夜も最後までできたものの、結局私の負け。悔しさを気取られないように、努めて冷静を装って負けを認める。

『中三の時に交換した本、読んだ?』
「え? あ、あぁ……“将棋入門”? うん、読んだよ」
『あれに書かれていた手を、いくつか組み合わせてたね』

 そう言われて、思わず苦笑いをこぼす。

 初心者向けの本にはほぼ書かれているような手だけれど、あれ以来何度も熟読したからか、体に染みついている。言い当てられてはずかしい気持ちと、前触れもなく投げかけられた中三の時の話題に緊張する気持ちが、ごちゃ混ぜになる。