「おはよ。あれ? 和奈ちゃん、まだコンタクトにしてくれてないんだ?」

 翌日の月曜日、朝、教室に向かう途中の階段で殿村くんに話しかけられる。学校指定ではないリュックにはお守りストラップがいくつもつけられていて、それがカラフルに揺れている。

「お、おはよう。……ハハ、コンタクトにするって言ったかな?」

 返答に困ってそう返すと、数段下にいた殿村くんがタンタンタンと小気味よい音をさせて私の横までのぼってきた。

「うん。だって、眼鏡なしのほうが可愛いから。いつコンタクトにしてくれるかなー、って楽しみにしてるところ」

 臆面もなくそう言える殿村くんを尊敬すらする。私はやはり慣れていないから、口ごもりながらまた愛想笑い。

「とーの、おはよ」

 2階に着くと、近くを通ったほかのクラスの女の子が話しかけてきて、
「はよー、ミッチー。今日も可愛いね」
「サンキュー」
 などという、軽くて自然な挨拶が交わされる。

さすが“殿”、“可愛い”の大安売りだ。けれど、やはり言われた女の子は悪い気はしないし、それは私も例外ではない。