ひと息にしゃべってしまい、はたと気付く。央寺くんが、きょとんとしていることに。

 あぁ、引かれてしまった。

『ハハッ。すげー、姫野』

 かと思っていると、央寺くんがはじけるように笑った。自分との会話で男子がこんなに笑顔になったことはないから、予想以上にびっくりしてしまった。

 大きな口が印象的で、なんだかとても可愛いような、いや、でもかっこいいような。とにかく、胸の中に大輪の花が咲いたような衝撃に胸を高鳴らせ、瞬きを繰り返した。



 それからというもの、私はもらった本を毎日のように読んだ。教室ではあの日のような深い話はできないけれど、その本を読むと彼との見えないつながりを共有しているようで、心が温かくなった。

 弟の練習相手も苦じゃなくなり、互角に戦えるようにもなった。もっと強くなって央寺くんに対局を申し込みたいな、などと考えながら、私はあの日の央寺くんの笑顔を何度も何度も反芻していた。

 そう、一ヶ月半後にあんなことが起こるとは思わずに、私はただただ、心を弾ませていたんだ。