『姫野って、いいやつなんだな』

 央寺くんが頬杖をつき、私をじっと見ながら言った。唐突な言葉に、私は『えぇっ?』と大げさに聞き返す。

『あいさつしっかりしたり、弟のために将棋覚えたり、人の立場に立って物事考えたり』
『そ、そんなことないよ』

 褒められ慣れていないから、顔が一気に赤くなり、急激に央寺くんを意識しはじめる。なんて簡単な人間なんだろう。こんなことで嬉しくて浮かれてしまって。

『むしろ、自信と行動力がなくて、しょっちゅう自己嫌悪だよ』

 そして、ペラペラと聞かれてもいないことを話してしまう。

『バス停で体調が悪そうなおじさんがいた時、声をかけられなくて素通りしちゃったこともあるし、この前なんか、お店で万引きしている人を目撃しちゃったんだけど、怖くて誰にも言えなくて』
『……』
『いつも、あとから、あぁしとけばよかった、こうしとけばよかった、って反省して。でも、いざとなるとぜんぜん動けなくて。偽善でもなんでも、行動することに意味があるって、ちゃんとわかってはいるんだけど』