『央寺くんも将棋できるの?』
『うん。小学生の頃から、じいさんに相手させられて覚えた。そっからハマって』
『そうなんだ。私もまだ覚えたてだけど、ちょっとわかる。やりはじめると面白いよね』

 意外な共通点。央寺くんと顔を見合わせて、ふっと笑い合う。

『……あ、そうだ』

 何か思い立ったらしい央寺くんは、一度廊下に出て、ロッカーから一冊の本を持って戻ってきた。私の席のすぐ横に立ち、その本を差し出す。

『これ、友達から返ってきて、ずっと置きっぱだったやつ』
『“将棋入門”?』

 見ると、そんなに分厚くないソフトカバーの本で、表紙もポップなデザインだった。手渡されて、“初めてでも簡単に覚えられる初心者用”というサブタイトルを指でなぞる。

『いらないからあげる。ちょうどいいんじゃない? 初心者には』
『え? 悪いよ』
『じゃあ、それと交換。俺も読みたいし、じいさんも読むと思う』

 央寺くんはそう言って、私の机の上の本を指差した。たしかに、この本はなんだか難しくて頭に入ってこない。