『てか、何読んでるの? その机の上の本』

 立ち上がりはしないものの、身を乗りだして覗きこんできた央寺くん。

『……将棋の本だけど』

 中学生で、しかも女子なのに将棋の本を読んでいるということが恥ずかしくて、引き出しにしまっておけばよかったと後悔する。

 けれども、央寺くんは、
『見せて。どんなやつ?』
 と言って、もっと乗りだしてきた。

 央寺くんは将棋に興味があるのだろうか。そう思いながら、私はためらいがちに本を見せる。

『あ、それ、畑辺名人のじゃん。姫野、将棋するの?』
『うん。小学生の弟が将棋クラブに入ったんだけど、練習相手がいないから、お姉ちゃんも覚えてよ、って本人にもお母さんにも頼まれて。探したんだけど、古本屋にこれしかなかったから……』
『初心者なのに、その人の本って……難易度高いと思うけど』

 よく知っていそうな央寺くん。引かれなくてよかったと思うと同時に、将棋の話が聞けて嬉しくなる。