その夜、寝る前に央寺くんの作成してくれたマニュアルに目を通していた私は、その細かさとわかりやすさに驚いていた。まさに痒いところに手が届くというか、ちゃんと新人向けに丁寧にまとめられていて、言っていた誤字脱字もない。

「……すごい」

 これを、私のためだけに? 二度読み終えたものの、そう思うともったいなくて、再度読み返す。お客さんに対する挨拶や定型返答を小声で繰り返し読み上げると、心なしか、次は大丈夫かもしれないという小さな自信が生じてきた。

 ……央寺くんて、気遣いができる人なんだな。さらっと、されて嬉しいことをしたり、言われて嬉しいことを言ったり。まぁ、正直だから、たまにグサリとくることもあるのだけれど……。

 三度目を読み終えた私は、ようやくベッドサイドの棚にそれを置き、照明を落とした。

 あの日も、そう思ったんだったっけ。
 できれば、思い出したくない。だって、あの一番傷ついたラブレター事件につながる記憶だから。

 そう思いつつも、眠さに目を閉じると脳裏によみがえってくる。あの日……私が央寺くんと初めてちゃんと話をした、あの朝の記憶が……。