『5四歩』
「……6八金」
その夜。卓上将棋盤をベッドの上にのせ、スマホをぎゅっと握りしめながら口頭で対局をしている私。電話の向こうには、央寺くん。まだ少し、この状況が信じられない。
昨日、央寺くんは十時半に電話をかけると言っていた。学校から帰った私は、夕食と宿題を終え、お風呂に入り、将棋盤をベッドの上にセットし、スマホを両手に持って正座で待機していた。
時間どおりに電話がかかってきたものの、緊張でどもりまくりの私は、ろくな会話ができなかった。お風呂上がりだというのに汗はかくし、間違えて電源ボタンを押して切ってしまうし、対局を始めてようやく落ち着きだしたところだ。昼間の学校での出来事もあって、感情の起伏に疲れ果ててしまった。
『やっぱりだ……』
二十分ほど経ってからだった。次の手を考えていて黙りこんでいたと思っていた央寺くんが、ボソリとつぶやいた。
『将棋してると眠くなる』