私は下を向いていた。だから、央寺くんがこちらを見ていたのかどうかはわからない。ただ、本人だけは私が差出人だと気付いていたのはたしかだった。

 なぜなら。
『差出人はわかっているけど、その人のことは好きじゃないし、つきあわない』
 央寺くんは、淡々とそう言ったからだ。

 その時の感情は、いまだに説明ができない。だれが私の手紙を靴箱に入れたのか。違う人の靴箱に入れたのは、意図的にやったことなのか単純な間違いなのか。なんで、私は告白するつもりなんてさらさらなかったのに、みんなの前でフラれているのか。差出人が私だと知っている女友達は、今何を思っているのか。

 いろいろな疑問が浮かんで頭の中はぐちゃぐちゃになったけれど、ひとつ確かなことは、友達が勝手に私のラブレターを出したという事実だった。それは、私にとってはあきらかな裏切りで、その後の私を人間不信にしてしまうのに十分だった。友達との接し方も、そもそも友達とは何かということすらわからなくなってしまった。

 また、望まない形で自分の気持ちを知られてしまい、そのうえ拒否されてしまったという事実が悲しくて恥ずかしくて、私はそれ以降ひとことも央寺くんと話すことはなかった。そして、それから私は、一度も恋をせずに今に至る。