『なぁなぁ、オウジ。お前宛ての手紙が俺の靴箱に入ってたんだけど』

 朝の教室に入ってくるや否や、央寺くんの首に腕を巻き付け、みんなに聞こえるように絡みだす男子のひとり。その名字から央寺くんは“オウジ”と呼ばれていた。

『俺宛てかと思って、読んじゃったんだよ。そしたらさ、今時、ラブレターっていうね』

 八割ほど登校していたクラスメイトたちも、興味本位にザワザワと騒ぎはじめる。誰が書いたのだろうか。私も差出人と央寺くんの反応が気になって、そちらに注目した。

 けれども、その男子がラブレターを読みだしたことで私の心中は一変する。その内容は、私が書いた“書くだけラブレター”そのものだったからだ。

 一気に血の気が引いたかと思うと、すぐさま顔が火を噴くほど熱くなった。唇と手はがくがくと震えだして、みんなの注目がその男子と央寺くんに集まっていなければ私が差出人だとすぐにバレていただろう。

 その手紙には、央寺くんの名前は入れていたものの、私の名前は書いていなかった。だから、男子たちはふざけて、話題を差出人探しへと持っていった。央寺くんに執拗に問いただし、やれ教室でふたりきりで語り合ったのは誰だ、本の交換をしたのは誰だと尋問して盛り上がる。