「俺、央寺だけど」
ぐらりと眩暈がする。
“央寺”……央寺くん。あの、人生の中で一番消したい思い出の、央寺くんだ。
「いらっしゃいませ」
店内にお客さんが入ってきて、央寺くんはまた店側を向いて声を張った。そして、また頭だけ半分振り返る。
「店長から新人の名前を聞いて、もしかしてとは思ってたけど」
「…………」
「本当に姫野だったんだな」
再会を喜んでいるようには見えないその声が、じわじわと中三の記憶を呼び起こす。
『差出人はわかっているけど、その人のことは好きじゃないし、つきあわない』
三年一組の教室の中、みんなの前で言われた言葉。忘れたいのに一字一句違わずに覚えている。
また、「いらっしゃいませ」とお客さんに言った彼は、小さく鼻を鳴らして、
「だから、なんで突っ立ったまま?」
と、今度は体ごと振り返ってこちらを見た。