「なんだか、夏にバスケ部の先輩だった三年生が、最後の試合で悔しい負け方をしたらしくてさ。それで次の代の央寺くんたちと顧問の先生が話し合って、土日も練習試合をどんどん入れて来年の夏に汚名返上しようってなったんだって。いやあ、青春だねぇ」
「…………」
「だから、土日に来れないことが多くなって中途半端になるから、辞めたいってことなんだよ。まぁ、わかるけどねぇ、タイミングがこう噛み合わなくて、無理いってこの時期までズルズル続けてもらって。まぁ、それも姫野さんのおかげでようやく終わりだ。嬉しいことに、もうひとり面接希望の連絡がきたから……」
「あ……そ……そうなん……ですか」

 店長がペラペラと嬉しそうに話し続ける。私は愛想笑いでずっと頷き続けたけれど、内心、とても重たい心持ちだった。

 なんだ……そうだったんだ。明日美さんが言っていた“条件”……今店長の話を聞くまで忘れてたけど、このことだったんだ。だから、私にあんなに親切に教えてくれてたんだ。電話やバス停での会話練習も、手作りマニュアルも、それで……。

 風のせいでブラインドがまたカタカタと音を響かせ、店長が窓をピシャリと閉めた。
なんでだろう。央寺くんがバイトを辞める。それはべつに、不思議なことじゃないのに、部活のためだったなら当たり前なのに、なんで私はこんなに落ちこんでいるんだろう。