そして早めに店内に戻ろうと、ちょうどロッカールームのドアを開けた時だった。すぐ目の前に明日美さんがいて、互いに「わっ」と声を上げる。

「びっ……くりしたわ。なんだ、姫野さん。私、スマホを取りに来たとこ」
「あ、あぁ……すみません」

 胸を押さえて息をついた私は、横にどいて明日美さんを中に通す。そして、ドアを閉めようとした。

「あ、そうだ。明日のレジ、私とペアだって聞いてる?」

 振り向くと、ロッカーを開けた明日美さんが、バッグの中に手を突っこみながら話しかけていた。

 初耳だった私は、
「いえ……」
 と返す。

「ほら、バスケの試合があるから、律はいなくてさ。私も応援に行きたかったんだけど、ここのスタッフ今ギリギリだし、姫野さんもひとりでレジ任せるのはもうちょっと先っぽいし。ていうか、早く自動レジ導入してよ、って話なんだけどさ」

 スマホを見つけたらしい明日美さんは、ついでにグロスを取り出し、ロッカーの鏡を見ながら尖らせた唇に塗りはじめた。