「園田さん、B社の藤木さんからお電話です」
「ありがとう、八八七五です」
自分の内戦番号を伝えて、私は受話器を取った。社会人になって四年が過ぎ、周りの友人たちが徐々に結婚をし始めた頃、私は仙崎さんの会社にそのまま正社員として勤めていた。
今は荷電の営業は行わず、主に宣伝部で働いている。仙崎さんは瞬く間に昇進していき、今は宣伝部の部長としてバリバリ働いている。
「詩春ん、お昼一緒行こうか」
資料を提出しに行くと、ちょうどお昼の時間帯だったこともあり、仙崎さんにランチに誘われた。独身主義者だと思っていた彼女も、最近突然結婚して周りを驚かせた。
私は財布と上着だけ持って、二人で一階へとエレベーターで降りる。学生の頃から数えると、仙崎さんと出会ってもう六年余が過ぎていた。
「パスタが美味しい店でいい?」
「いいですね。お腹空きました」
オフィスから少し歩いた、路地裏にある洋食屋さんに入ると、席に着いた仙崎さんはすぐにタバコに火を灯した。
「はー、結婚しても別居って、まだそんなことで騒がれる時代なのが悲しいよ」
「まあ、結婚のイメージが固定化され過ぎてると、驚くかもしれませんよね」
「大切にしたいと思うのは変わりないのに、ちょっと離れて暮らしてるだけで親戚がワーワー言ってきてさあ」
自由人の仙崎さんは、結婚してからも変わらずに自由に生きている。そんな彼女はいつまでも輝いていて眩しいくらいだ。
「そういえば、馨とは最近会ったの?」
「あ、今日会いますよ」
それから、最近驚きの出来事があった。仙崎さんはまさかの吉木の叔母で、彼女が過去に言った〝うちの甥っ子〟とは吉木のことだったのだ。そのことが偶然発覚した時、世間の狭さに驚いたと共に、もう仙崎さんと今まで通りに話すことはできなくなるのかと急に怖くなった。
しかし、仙崎さんは私の履歴書を見た時、もしかしたらそうなんじゃないかと既に思っていたらしい。告別式で吉木に突き飛ばされた日のことを、彼女もまた覚えていた。あの頃は、私に対しては哀れみの気持ちが強かったと言うけれど、今こうして一緒に働いてからは、そんな気持ちが徐々に薄れていったという。
「言っといて。そろそろお前も山ばっか登ってないでいい人作りなって」
「はは、またブロックされますよ」