やや熱を入れて語ってくるカグムに、麟ノ国は嫌いか、と尋ねる。彼はあまり好きではないと答え、ユンジェに好きか、と聞き返した。
正直なところ、分からないというのが本音だ。
ここ最近になって国や王族を知り、五つの州を知り、広い土地を知ったユンジェにとって、好き嫌いの判断となる材料が少ない。
ティエンの命を狙ってくるクンル王は嫌いだし、ユンジェを物扱いしてくる王族も好きではない。ティエンを王にしようとする天士ホウレイのことも、素性が把握できていないので、あまり好感が持てない。
しかし。それが国の好き嫌いになるかというと微妙である。ユンジェはまだ国をよく知らないのだから。
「もしも。麟ノ国がひどい国だとしても、俺、仕方がないって受け入れて終わりそう」
そういう生き方をしてきたので、大なり小なり理不尽な扱いを受けても、辛抱する選択をするだろう。農民の大半はそうして生きている。
「ユンジェ。俺達は生まれる国を選べない。けどな、国の上に立つ人間は選べるんだぞ。王が変われば、今よりずっと良い国になるかもしれない」
「じゃあ、カグムは国を好きになりたいから、王を変えようとしているの? だから悪いことだって知っていても、国に逆らっているの?」
カグムが困ったように笑い、小さく肩を竦める。
「さあ。好きになるかどうかは分からない。ただ、今より良くしたい気持ちはあるよ」
「王さまって一人しかいないんだろう? そいつが変わるだけで、国が変わるの?」
「すごく変わるぞ。民の暮らしも、他国の関係も、政や戦の在り方も。天上したミンイも、クンル王でなければ大往生を迎えられたかもしれない」
たった一人で、たくさんのことが変わってしまうらしい。ユンジェには想像もつかない。
「カグム。ティエンは王さまに相応しい? あいつ、国を亡ぼす呪われた王子なんだろ?」
「……そうだな。そう呼ばれているな」
「ティエン、呪いで国を亡ぼすかもよ」
「かもな」
「それでも、ティエンがいいの?」
「それがホウレイさまの御意思ならな」
カグムはティエンに死んで欲しいと願っている男である。ホウレイの意思がなければ、彼はティエンとどう接していたのだろう。気になるところだ。
そこでユンジェは彼に聞く。
「カグム。ティエンのこと嫌いか? よく喧嘩しているけど」
重々しくため息をつき、「ティエンとは気が合わない」と、はっきり答えた。