投手戦だった1回戦とはうってかわり、きょうは完全なる打ちあいだった。

5回を終えてスコアは6-6。ウチのナインはよく打ったし、よく走った。そして、市川はよく打たれた。


6回表、前半から少しの間が空いたあと、マウンドに姿を現したのは市川ではなかった。

背番号10、2年生の大森くん。和穂によると、去年の夏は20番を背負ってベンチ入りし、公式戦は秋の大会で何度か投げたらしい。

サイドスローのピッチャーだった。落ち着きはらった投球をする2年生だな。春日の出すサインに首を振ることなく、ぽんぽん投げてはバッターをアウトにしていく。大森くんは6回から9回までマウンドに立ち続け、1点も取られないで仕事を終えた。


気づけば9回のウラだった。スコアボードには0がいくつもならんでいる。大森くんが抑えてはくれていたが、ウチもなかなか得点できなかったのだ。

6-6。

同点のまま迎えた最終回、最初に打席に立ったのは朔也くんだった。


突き抜けるような高音や重々しい低音をめいっぱい響かせながら、ブラスバンドが打者を鼓舞する。

雪美が言うように、本当に音がきれいに鳴る球場だ。やってて気持ちいいっていうのがわかる。
朔也くんはどうだろう。わたしたちの声は、応援は、ちゃんと届いているかな。


噂の『イケメン控え投手』は8回から登板していた。自分に絶対的な自信があるというのが目に見えるピッチャーだ。まさにイケメンって感じ。

でも朔也くんだって負けてない。顔の造形がどうとかじゃなく。闘志が。ぜったい打つぞ、打ってやる、打てる!という気持ちが。


勝負に勝ったのは朔也くんのほうだった。

彼のバットが放った打球はまっすぐ三遊間を抜けていった。深めに守っていたレフトがあわてて前進してくる。やっと捕球したレフトがファーストへ送球しようとしたときにはもう、俊足のリードオフマンは一塁ベースをしっかりと踏んでいた。

ノーアウト一塁。

朔也くんがホームに帰ってきたら、ウチの勝ちだ。