「ふう」
 
背中に入れていた力を緩め、窓の外の緑を見ながらひと息つく。
今日はピアノ教室も英会話教室も休みだから、ちょうどよかった。
1時間くらい弾いて帰ろう。

「へぇ。涼しいね、ここ」
 
急に聞こえた声と足音に、窓の方へ向けていた顔を180度ひねって入口のドアを見る。
驚きすぎて声が出せない私は、その声の主がスタスタと中に入ってきて、キョロキョロと音楽室の中を見回す姿を、瞬きを繰り返しながら凝視した。
 
見慣れない男子生徒だった。
茶髪とまではいかないまでも色素の薄い髪は、寝癖かセットかわからないようなハネ方をしていて、ところどころ立ち上がっている。

目は小さくないものの少し吊りぎみで、眉毛も短くシュッと逆ハの字。
半袖の白シャツは、なんとなく襟の部分がこの学校指定のものとは違う気がした。

「あ。ラッキー、ソファーがある。ここにしよう」
 
窓際に寄せられていたカーキ色のソファーを見つけた彼は、まず学校指定のボストンバッグをそこに投げた後で、バフンと勢いよく座った。

少し埃が立ったのだろうか、2回ほど咳をした後、
「ま、じゅーぶんだな」
と言ってバッグを枕にして寝転がる。