クセだ。クセでついつい足をペダルに伸ばしてしまっただけなのにそう言われて、私は「はいはい、やらしーですよ」と軽く受け流す。
こんなふうに流せる程度には仲がよくなっているのだ。

相良くんは面白くなさそうに、私の肩を自分の肩で突いた。
私は無視をして「始めるよ」と言い、鍵盤に指を置く。

「せーの」
 
私の合図で、ゆっくりとしたハノンが始まる。

今まで単音だった相良くんの音色が私の単音と合わさって、とても心地いい重なりの響きを奏でた。

こんなにゆっくり弾くハノンは新鮮で、しかもふたり合わせてなんて初めてで、ちょっと楽しくなってくる。
まるで、 互いの指でそれぞれ練習したダンスの初合わせをしているみたいだ。