「ねぇ、ウサギ。右手で入ってよ」
 
そう言われたのは、相良くんが一回だけハノンを通した後だった。

「俺、まだゆっくりしか弾けないから、このペースに合わせてさ」
 
上達したら一緒に弾いて合わせようと言っていた、それぞれ片手ずつの演奏。
今日が初めての試みになる。

「うん、わかった」
 
ここしばらくは立って演奏を見ていた私は、そう返事をして久しぶりに彼の隣に腰を下ろし、足をセットする。
けれど、ペダルのところで相良くんの足とぶつかった。

「あ、ごめん」
「やらしー」