「とくに、ここ。この部分のアレンジだかミスだかが、最高によかった」
 
気分が高揚しているのか、ソファーから起き上がってピアノのところまで来た相良くんが、エチュードの一節を、しかも私がたった今弾いた感じで再現する。

ゆっくりだけれど、たしかにそんなふうに弾いた覚えがあった。

「……相良くんのほうがすごいよ」
 
私は感心して、横に立ったままでピアノの鍵盤に触れる彼を見上げる。
するとなぜか、相良くんの横顔がものすごく大人びて見えた。

優しい眼差しで微笑みながら再度弾いている相良くんが、「ほら」と言ってこちらを見下ろしたことで、私は見間違いかと思って何度も瞬きをする。
すでに彼は、少年の顔に戻っていた。
 
結局、集中ができなさそうだと判断した私は、先に相良くんのレッスンをしよう、と提案した。
その後で、私はひとりでゆっくり練習すればいい。