ふう、と息をつき、指慣らしの曲を弾いた後で、ショパンのエチュードを弾き始める。
まるでハープのような繊細な響きを奏でることで有名なこの曲を、忠実に弾いていく。
 
あ……まただ。また、ここだ。
 
最近よくミスする場所で、案の定一音を飛ばしてしまう。
調子が戻ってきたと思った途端にこんな調子で、弾き進めながらもそのミスに引きずられてしまうような錯覚がする。
 
集中、そして練習量が大事だ。
今日は相良くんが帰ってからも、しばらく弾くことにしよう。


「いつだったっけ?」
 
ちょうど一曲弾き終えて鍵盤から指を離したところだった。
相良くんの質問の声に振り返った私は、「なにが?」と聞き返す。

「コンクール」
 
相良くんはお馴染みのポーズで、スマホをタップしながら話していた。