「どうだ? 理穂子。ピアノのほうは頑張ってるか?」
 
夕食中、お父さんが尋ねてきた。

私は、
「うん。旧音楽室のおかげで、のびのびと練習させてもらってる」
と答える。

お母さんが、「ふふ。よかったわねぇ」と頷いた。

「ピアノ教室の先生からもお電話もらってね、理穂ちゃんとてもよく頑張ってるから、コンクールもばっちりでしょう、ですって」
「そうかそうか、いいことだ」
 
益川先生の話が出たことで、私は少しだけ胸の内が陰った気がした。
あの中学生の女の子の演奏と先生の拍手を思い出したからだ。

たしかに毎回「よくできました」と褒められてはいるけれど、あれ以来なんとなく表面的な言葉に思えてしまう。