“ド”の音を人差し指で押すと、ポーンと音楽室に音が響いた。
音が響きやすい部屋の構造になっているからだろうか、窓は開いているものの、澄んだ音が反響する。

続けてポンポロンと軽く指を弾かせた私は、椅子を少しはたいてから座り、指慣らしの曲をさわりだけ弾いてみた。

「うん」
 
大丈夫そうだ。
話では、このピアノはだいぶ劣化してしまったから、新音楽室には新しいピアノが入れられたとのことだったけれど、思ったほどではない。
むしろ新しいピアノのほうが馴染むのに時間がかかるから、こちらで練習させてもらえることになって願ったり叶ったりだ。
 
手首につけていた髪ゴムで、前下がりで肩上の髪を後ろで束ねる。
そして、コンクールの課題曲である、ショパンのエチュードを弾き始めた。

数ヶ月前から練習するようになったこの曲は、指を流れるように使うのが難しかったけれど、毎日弾いていたら慣れてきた。
通っているピアノ教室の先生も驚き、お父さんとお母さんも褒めてくれた。
 
いい風が、気分よく弾いている私の頬を撫でる。
指が羽のように軽い。
最後まで穏やかな気持ちで弾けたからか、今までで一番少ないミスで通すことができた。