それから、週に三回、旧音楽室でピアノの練習をした後で相良くんに教えるのが習慣になった。

と言っても、彼はハノンの左手の音をすでに頭に入れているので、スムーズに弾けるように繰り返し練習する様子を見守っているだけで、私はとくにすることがない。
 
相良くんは、少しずつ少しずつ上手になっていった。

ゆっくりすぎるくらいの演奏だったのが、最近ちょっとリズムが取れて速くなってきたような気がする。もう少ししたら、一緒に弾いて合わせてみてもよさそうだ。
 
私のコンディションも戻ってきて、雑念を極力入れずに正確さを追い求める今までのピアノの音が出せるようになってきた。

もしかしたら、懸命に練習している相良くんの姿に、いい刺激を受けているのかもしれない。