大丈夫。できている。
これだけ毎日やっているんだから、指がちゃんと覚えている。

…………でも。
 
私は途中で手を止めてしまった。

最後の一音の余韻が、旧音楽室に吸い込まれるように響いて消える。
今日は風もなく、まるで時間が止まったかのような静寂が訪れた。

「なに? さっきの、気にしてんの?」
「違う」
 
相良くんからの声かけに、即答する。

けれども少し語気が強めだったからか、
「じゃあ、なに怒ってんの?」
と聞かれる。