「ていうかそれ、よく私の前で言えるね。残りふたりにも失礼だし」
「ハハ。ウサギも可愛いよ」
「いらないよ、そんなの」
 
いつも飄々と冗談を言う人だから、いいことも悪いことも特に気にせず、私は楽譜を置いて髪を結び、いつものように演奏を始めた。

すると、後ろでバフンとソファーに勢いよく寝転がる音が聞こえて、見なくてもスマホゲームか昼寝が始まったな、と思った。
 
最初は指慣らしのハノンを弾いて、それから課題曲の練習に入る。

そして、ショパンを弾き始めたところで、私は先週金曜のピアノ教室のことを思い出した。
 
……やだな。集中できない。
 
そう思った途端に、指が硬くなった気がした。
でも、間違えてはいない。
少しスピードを落として、複雑な指の動きを正確に進める。