「『なかなかよくない?』って言ってた子、どの子?」
「えっ? 聞こえてたの?」
「言ったじゃん、俺、耳がかなりいいって」
放課後、ピアノの鍵盤蓋を開けていると、先に来ていた相良くんがソファーに胡坐をかきながら聞いてきた。
ちゃんと通り過ぎてから話しだしたのに聞こえていたとは、本当に耳がいいらしい。
「私たちの中で一番背が低くて、長めの髪のストレートの子」
「マジ? 一番可愛い子じゃん」
相良くんは「よし」と得意げな顔をして、指をパチンと鳴らす。
遠恋の彼女に、こんなこと言ってますよ、と動画を送ってあげたい。