「あぁ、あれが?」
 
着替えの入ったバッグをぶんぶん回しながら、尚美が顎を上げる。

「そう、あの人。彩ちゃんは目つき悪いって言ったけど、私的にはかっこいいと思うんだけどな。尚ちゃん、どう思う?」

「んー……。横顔しか見えんけど」
 
なぜかそのときに相良くんともうひとりの男子が立ち止まり、冗談を言い合っているのか、ハハハッと笑った。
立ち止まったら追いついてしまうじゃないかと、私はほんの少し身構える。
 
できれば、私に気付かないでほしいし、話しかけてもこないでほしい。

だって、なんで知り合いかを追究されたら、放課後に旧音楽室でピアノ練習をしていることも、彼と一緒の室内で過ごしていていることも、ピアノを教えていることも、全部バレてしまう。