「あ」
 
しまった、と思って立ち止まる。
ピアノ教室に忘れてきてしまった。

すでに駅のほうが近いけれど、電車を降りてからは徒歩だから、取りに戻ったほうがよさそうだ。
そう判断した私は、踵を返し、今歩いてきた道を戻る。

電車の時間までは余裕があるし、大丈夫だろう。
 
ピアノ教室の入っているビルはエレベーターがないため、3階まで歩いてのぼる。
日頃体を動かす習慣がなくて体力のない私は、本日2回目になる階段のぼりに息を切らして教室のドアを開けた。

「…………」
 
え…………?