「あっ! そうだ、時間大丈夫?」
「うわっ」
 
もう10分経ったんじゃないだろうか。

掛け時計がないから慌ててそう叫んだ私に、相良くんは変なピアノの音を立てた。
「びっくりしたー」と言って、ポケットの中からスマホを取り出す。

「あ、マジだ。行かなきゃ」
 
やべ、と言った相良くんは、椅子から下りてバッグを抱える。

「じゃーな。サンキュ、ウサギ。えー……っと、次は」
「来週の月曜日」
「そう、月曜」
 
軽く手を上げてそう言った相良くんは、大股で駆けていく。
階段を下りる足音まで聞こえた。

「10分て……早……」
 
呆気にとられて彼を見送った私は、椅子に座って体を捻ったままでぼそりと呟いたのだった。